2024/01/26
コピーが容易なデジタルデータに、ブロックチェーン技術を活用することで、唯一無二の資産的価値を付与し、新たな売買市場を生み出す「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」。現在は主にブロックチェーンゲームにおいて活用されていますが、デジタルデータに唯一性を与えることができるNFTは、会員権や不動産の所有の証明、著作権やアートなど、さまざまな分野で実用化が進んでいます。
本記事では、NFTの仕組みや特徴、暗号資産との違い、具体体な活用例、現在の市場動向と将来性について詳しく解説していきます。
NFT(Non-Fungible Token)は、ブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのこと。代替不可能なトークンとは、唯一無二の「一点モノ」の価値を生み出せるトークンという意味です。
NFTは暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行および取引されます。従来、デジタルデータは容易にコピー・改ざんができるため、現物の絵画や宝石のような資産価値があるとはみなされませんでした。しかし、この状況を変えたのが、NFTおよび暗号資産の技術基盤であるブロックチェーンです。ブロックチェーン技術を活用することで、コピーや改ざんがほぼ不可能であることから、唯一無二の価値を証明することができるようになりました。
現在では、ゲームアイテムやデジタルアート、会員権など、有形・無形さまざまなものがNFT化されています。
たとえば、Aさんが持っている1ビットコインとBさんが持っている1ビットコインは同等の価値であり、交換することができる「代替可能」なものです。財布の中の100円玉がどれも同じ100円の価値を持つのと同じことです。お金や暗号資産は「代替可能な資産」です。
一方、NFTには固有のトークンIDが付与され、データの唯一性が価値の根本にあります。NFT同士を同じものとして代替したり、等価にしたりすることはできません。「代替不可能」とは全く同じものが存在しない、たとえば「メジャーリーガーの直筆サイン入りTシャツ」のような一点モノであることを意味しています。お金や暗号資産と異なり、NFTは「代替できない資産」です。
一点モノで代わりがないトークンのことをNFTというのに対して、暗号資産(仮想通貨)のような代替可能なトークンのことをFT(Fungible Token/代替可能トークン)と呼びます。両者の違いは、以下の通りです。
名称 | FT | NFT |
特徴 | 代替可能 (同じトークンが存在する) | 代替不可能 (同じトークンが存在しない) |
トークン規格 | ERC-20 (ERC-1155) | ERC-721 (ERC-1155) |
分割 | 可能 | 不可能 |
活用されている分野 | 暗号資産など | ゲーム、アート、ファッション、 不動産、スポーツ、会員権など |
NFT技術は、この「代替不可能」という性質があるために、ゲーム内で独自の価値を持つキャラクターを生み出したり、会員権や不動産などの所有の証明に利用されたり、活用の幅が広がっています。
ERCとは、Ethereum Request for Commentsの略で、スマートコントラクトの規格を指します。ERCは規格ごとに番号がついており、多くのERCトークンは基本的機能が備わったERC-20という規格を利用しています。ERC-20ではお互いに代替可能(Fungible)なトークンしか発行することができません。
一方、ERC-721は固有のトークンIDを設定することで、お互いに代替不可能(Non-Fungible)なトークンを発行すること可能です。これにより、唯一無二の価値を持たせることが可能になります。また、ERC-1155はNFT(代替不可能)とFT(代替可能)のどちらも発行・管理できるスマートコントラクトの規格で、マルチトークンスタンダードとも呼ばれています。
NFTには、主に5つの特徴があります。
プログラマビリティとは、さまざまな付加機能をデータにプログラムできることをいいます。
プログラマビリティを利用することで、NFTの創作者は2次流通時の手数料や取引数量の制限などを事前にプログラムすることが可能になります。NFTが創作者の手を離れても、「流通時に購入代金の一部が作者に振り込まれる」というプログラムを組むことができます。
そのため、NFT創作者に継続的にマージンが入る仕組みを作ることも可能ですし、著作権管理を行う団体(音楽でいうとJASRACのような団体)を介さずに手数料を徴収することも可能になります。
前述した通り、NFTはブロックチェーン上で構築されているため、作成するデータに対して「唯一性」を付与することができます。デジタルデータであっても現物の絵画や宝石と同じようにコピーや改ざんができない「一点モノ」を作成することが可能です。
たとえば、見た目は全く同じデジタルアートでも、ブロックチェーンに記録されている識別情報も踏まえて作品ごとに価値が決まるので、それぞれ代替不可能な存在として扱われます。
また、NFTには、オリジナルと全く同じものをコピーして作成することができないという特徴があります。たとえば、NFTアートをPCのディスプレイに映してスクリーンショットを撮ることでコピーを作ることはできますが、そのコピーにはブロックチェーンによる情報が存在せず、オリジナルとコピーの明確な判別が可能になります。
このような仕組みによって、従来型のデジタルデータとは違い、NFTは1つ1つの作品に資産的価値が生じ、NFTマーケットプレイスでの取引が成り立っているのです。
NFTはブロックチェーンを基盤にしており、そこに作成者や所有者などの情報が記録されています。一般的にブロックチェーンとは、同じデータを複数の場所(台帳)に分散して管理するデータベース技術のことを指し、分散型台帳とも呼ばれます。
もし、ハッカーがブロックチェーン内の情報を改ざんようとしても、中央集権的なデータベースと違って複数の場所を攻撃しなければならないため、そうした行為は事実上、ブロックチェーンでは困難となります。また、ブロックチェーンへのデータの記録は、複数のノード(ブロックチェーンのネットワークを構築するコンピューター端末のこと)による合意形成によって行われているため、仮に悪意のあるユーザーが嘘のデータを記録しようとしても、1人では合意に至らないため改ざんは不可能です。
このようなブロックチェーンが持つ高いセキュリティ技術によって、NFTは安全に管理されています。
NFTは、特定の組織ではなく、非中央集権的なブロックチェーンによって管理されています。そのため、ビットコインなどの暗号資産と同じように、所有するNFTを自由に移転・取引することが可能です。このことを「取引可能性」と呼びます。
これにより、国や既存の枠組みにとらわれることなく、従来以上に自由な取引が可能になるのです。
NFTを扱うイーサリアムブロックチェーンの規格は、「ERC-721」が一般的です。大半のNFTは「ERC-721」という共通の規格で発行されているため、この規格に準じているウォレットやマーケットプレイスであれば原則どこでも取引が可能です。
ただし、現状、技術的に相互運用性は完全ではなく、この規格が必ずしも標準というわけではない点には注意が必要でしょう。
NFTは代替不可能なトークンであるがゆえに、あらゆる分野での活用が進められています。ここでは、すでに実用化が進んでいる以下の分野について具体的に解説します。
画像引用元:The Sandbox日本公式サイト
NFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)とは、ブロックチェーン技術を基盤にしてつくられたゲームの総称です。NFTゲームでは、ゲームのアイテムやキャラクターなどがNFTとなっており、プレイ要素の1つとして、自分でキャラクターなどのNFTを発行することができるゲームも多くあります。また、大半のNFTゲームには、GameとFinance(金融)を組み合わせた新しい概念である「GameFi」が組み込まれており、ゲームのプレイ報酬として仮想通貨やNFTを獲得して、それらを売って稼ぐことが可能です。しかし、初期投資が必要な場合が多く、サービスが終了してしまったNFTゲームプロジェクトのNFTは、資産的価値を持たないことが多いので注意が必要です。また、一方的にサービスを改変されてしまうリスクや、NFTゲームを利用しようとして詐欺に遭遇してしまうリスクなど、注意すべき点は多数存在します。
※海外NFTゲームは国内法に準拠していない場合がありますので、ゲーム内での一部の操作が国内法に違反する可能性もあります。海外NFTゲームには十分に注意してください。
画像引用元:CryptoPunks
絵画やイラスト、写真などのアート作品は、これまではモノとして取引されるのが一般的でした。しかし、NFTによって無形のアセットにも所有の証明ができることになり、デジタルアートにも希少価値を持たせることが可能になりました。デジタルアートが高値で取引された例としては、2021年3月にデジタルアーティストのBeeple氏によるNFTアート「Everydays: the First 5000 Days」が、NFT史上最高額となる約6,935万ドルで落札され、話題になりました。また、2017年にリリースされ、最古のNFTプロジェクトとして知られる「CryptoPunks(クリプトパンクス)」などもNFTアートとして有名です。
しかし、NFTアートの価格は乱高下するため、高額で購入したNFTアートがあっという間に下落することがあります。また、NFTアート自体のデータが使えなくなって価値が消えてしまうこともあるので注意が必要です。
※投機目的で売買する場合は、損失を被る可能性もあるので注意が必要です。
画像引用元:株式会社集英社
2021年9月には、集英社のマンガアート販売の新事業「集英社マンガアートヘリテージ」が、尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』の連載1,000回・コミックス100巻発売を記念し、活版印刷作品「The Press」10点をNFTとして販売し、話題になりました。このようなコレクション性の高いNFTは、一部のファンを中心に熱狂的な人気を集めています。また、希少性の高いNFTには高値がつきやすいため、中には投機目的で保有している人もいるようです。
※投機目的で売買する場合は、損失を被る可能性もあるので注意が必要です。
NFTファッションとは、デジタル上のファッションに、NFT技術を掛け合わせたものを指します。NFTの持つ唯一性、改ざんが不可能といった特性が加わることで、デジタル上のファッションに所有権の証明、1点モノの価値を付与することが可能になりました。これにより、ブランドや商品としての価値を生み出すことに成功しています。
画像引用元:OpenSea
「RTFKT(アーティファクト)」とは2019年12月に創業した、新進気鋭のNFTブランドです。2021年12月にNIKEに買収され、NFT業界だけでなくファッション業界からも一躍注目を集めました。ハイクオリティなバーチャルスニーカーを中心に、さまざまなデジタルファッションコンテンツを展開しており、世界中に熱狂的なファンを擁します。
画像引用元:LOUIS VUITTON
フランスのラグジュアリーブランド「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」が、メゾン初となる「VIA トレジャー・トランク」を通じて、デジタルコレクティブルを発表。価格は税込586万3000円。2023年6月8日よりルイ・ヴィトンの公式サイト内専用ページから「VIA トレジャー・トランク」購入のためのウェイティングリストへの登録を開始、数百個限定で販売されました。「VIA トレジャー・トランク」はルイ・ヴィトン世界へのポータルサイトとして機能し、1年を通して順次発売される没入型の新作ドロップを通じて、新たな限定製品や体験を楽しむことができます。
NFT(非代替性トークン)は2021年から2022年にかけて取引のピークを迎えましたが、すぐに市場の熱は冷めてしまい、市場は低迷しています。
NFTなどの分析を行っている「DappRadar」が2023年3月30日に公開した2023年第1四半期の業界レポートによると、2023年第1四半期のNFT販売数は前四半期比で8.56%増となる1,940万件となり、取引高は47億ドル(約6兆2,000億円)に達しました。
各ブロックチェーンの市場シェアを見てみると、3月時点のNFT市場ではイーサリアムが89.5%と最も大きく、取引高については2022年第4四半期と比較して245.43%増の41億ドル(約5兆4,500億円)を記録しました。
また、DappRadarは2023年第1四半期に特に活動的だったブロックチェーンとして「ソラナ(Solana)」と「ポリゴン(MATIC)」を挙げています。具体的には、ソラナのNFT取引高は前四半期比で4.55%増となる2億4,200万ドル(約322億円)、ポリゴンは3月の取引高が前月比で24.2%減少したものの、2,980万ドル(約40億円)を記録しました。さらに、四半期ごとのデータを見ると、2023年第1四半期の取引高は前四半期比で125.04%増となる8,500万ドル(約113億円)となりました。
画像引用元:公式X
Sealauchの調査によると、2022年8月からの1年間で2023年8月の取引量が一番少ないことがわかります。また、バブルが崩壊したのは、イーサリアムのNFTだけではなく、ビットコインNFTも同様に取引量が激減しています。また、2023年1月頃からトレーダー向けの「Blur」というマーケットプレイスが「OpenSea」の取引量を上回っていることがわかります。Blurでは取引をするたびに独自のトークンを手に入れることができるため、投資家たちはNFTをトレードで得る利益よりもBlurからもらえるトークンのほうが利益を狙いやすいと考え、NFTがより短期でトレードされるようになりました。
2023年8月時点で、マーケットプレイスはクリエイターではなく、トレーダーを優遇するのがトレンドになりつつあります。本来、NFTは取引されるたびにクリエイターに「ロイヤリティ」と呼ばれる手数料が入り、新たなマネタイズの可能性が広がりました。しかし、現在は、このロイヤリティをなくす動きが強まっています。
NFTは注目されはじめたばかりの技術なので、取引や権利関係の法整備はまだ進んでいません。NFT取引は、詐欺やマネー・ローンダリングの温床であるとの指摘もなされています。また、暗号資産関連の法整備もまだ十分とはいえない状況で、しばらくはこの状態が続く見通しです。そのため、NFT関連のトラブルが起きても自己責任が原則であり、法的な対応を取ることが容易でないことに注意しなくてはいけません。
日本では暗号資産(仮想通貨)やNFTの法整備などの環境が整っていませんでしたが、「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」でWeb3(分散型ウェブ)の環境整備を本格化していくことが発表されました。
また、政府は「新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画(案)~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」も作成しています。この中でも、Web3推進に向けた環境整備を進めると説明。そして、ブロックチェーン技術の可能性について、以下のように記述しました。「ブロックチェーン技術は、自立したユーザーが直接相互につながるなど仮想空間上の多極化を通じ、従来のインターネットの在り方を変え、さらに社会変革につながる可能性を秘めている」。 NFT(非代替性トークン)は投機的なイメージが先行してしまっていますが、根幹にあるブロックチェーン技術を活用したサービスは続々と開発されており、実際にサービスに組み込まれ始めています。成熟するにつれて、NFTは単なる収集品から具体的な実用性と重要性を持つ資産へとますます軸足を移していくでしょう。
最後に、マーケットプレイスを含むNFT市場はまだ発展途上段階にあります。技術の進歩や新しい用途の発見により、今後も変化していくことが予想されるため、市場の動向を注視しながら、今後の展開を見守っていく必要があります。
著者
メタバース情報局編集部
メタバース情報局 by transcosmosはトランスコスモス株式会社が運営する法人向けメタバース情報メディアです。メタバースを活用したビジネスの事例やノウハウ、最新情報、バーチャル体験など、メタバースの魅力をお届けします。ビジネスシーンにおけるメタバースの活用や、導入をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。
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