2023/11/15
新型コロナウイルスによる影響で、ここ数年で教育現場のオンライン化が加速しました。そして、次なるオンライン教育の形といわれているのが「メタバース」を活用した学習法。「受け身になりやすい」「相互コミュニケーションが取りづらい」といったオンライン教育の障壁を乗り越える、新たな選択肢として注目が集まっています。IT化・リモート化が加速する教育現場が、メタバースの活用によってどのように変化していくのでしょうか。
本記事では、学校教育の活用事例を紹介しながら、「教育にメタバースを活用することで、どのようなことが実現できるのか」「実際にどのような活用方法があるのか」について解説します。学校教育でのメタバース活用にご興味・ご関心をお持ちの方は、ぜひ最後までご一読ください。
仮想空間にアバターとして入り込むことで、現実世界のような距離感を感じながら、アバター同士でコミュニケーションを取ることができます。これにより、遠方にいる学生や他校の学生とも実際に会っているかのような交流が実現します。海外の学生と同時に接続すれば、語学学習や文化交流などのバーチャル留学がかなうでしょう。
ビデオ会議ツールを使った授業は画面に向き合う時間が多く、受け身の学習になりがちです。一方、メタバースを使った授業は、アバターを介して「行く」「触れる」「体験する」「ディスカッションする」といったアクションを起こすことが可能です。体験を通して学ぶことで、学習内容の定着を図ることができます。
メタバースでは、アバターを介した疑似体験ができます。たとえば、歴史の授業では過去にタイムスリップしてその当時の文化に触れることも、歴史的瞬間に立ち会うような疑似体験をすることも可能です。また、危険を伴うような実験も、仮想空間でアバターを介して疑似体験することで、実世界の安全を確保したまま行うことができます。
テキストベースでは理解しづらいコンテンツを3Dで表示することが可能です。これまで2次元ディスプレーや教科書からのインプットに頼り、人間の想像力の補完によって学習されてきたものが、3Dで立体的に見られることで、より直感的に学習できるようになります。また、3Dコンテンツだけでなく、アニメーションを活用することで学習効率の向上が期待されます。
メタバースなら、ひきこもりや不登校の子どもが学ぶ機会や学校に通う経験を与えられます。すでに学校長が認めれば、メタバース登校が出席扱いになる自治体が6つあります(2022年9月時点)。今後は「メタバース登校が1つの選択肢」となり、生徒たちが自ら選ぶ時代が来るのかもしれません。
認知障がいなどを持つ生徒が、他人とのコミュニケーションや感情・行動の実践練習など社会的スキルを身に着けるために、メタバースを活用し、現実世界を再現した空間でトレーニングする教育手法なども考案されています。
学校独自のメタバース空間を構築するには、開発・制作コストや運用コストがかかります。また、メタバースを活用した授業で、VRヘッドセットを生徒の人数分用意するにはある程度の予算が必要になります。プラットフォームによっては、VRヘッドセットがなくてもPC・スマホ・タブレットで体験できるため、用途に合わせて選択していきましょう。
まだまだ成長中の産業のため、学習に使えるコンテンツが必ずしもあるとは限りません。また、対応している学校や教育機関も限られています。しかし、今後の技術革新や市場の拡大に伴い、今後さらにメタバースの教育コンテンツや専用教材が開発されることが期待されますが、現時点では利用できるコンテンツが少ないといえるでしょう。
教育者のITテクノロジーに関する知識や、学習環境に格差があることも指摘されています。多くの学校においては、まだまだメタバースの導入に障壁があることも事実です。これからはより多くの学校がVRを授業に導入し、学生が新しい方法で創造と学習を行えるようになるでしょう。
VRヘッドセットを装着して長時間メタバース空間に滞在すると、乗り物酔いに似た症状が出る場合があります。これは、左右の目に映る映像の差によるもので、個人差はありますが、注意しながら使っていく必要があります。また、メタバース内での活動に没頭しすぎて現実世界での生活や人間関係が疎かになったり、メタバース内での成功体験が現実世界で得られない場合、その違いから精神的なストレスを感じたりすることもあります。
これらのリスクを避けるためには、使用時間の管理やバランスのよいライフスタイルを心掛けましょう。
アメリカのスタンフォード大学で、Oculus Quest 2とVR環境を活用して行われるコース「Virtual People」が実施されています。「Virtual People」は、スタンフォード大学では初となる、授業のほぼすべてでVRを利用する講義です。 授業では、VRがどのように社会に浸透し、技術的進化を遂げてきたかをバーチャル講義の形式で学びます。また、VR内での課外学習として、人種的不平等に直面した男性の人生を経験することで、人種的寛容さを学べるコンテンツなどもあります。
医療系の総合大学である新潟医療福祉大学は、来場型・WEB型に続く、第3のメタバース型オープンキャンパスを開催しました。「個別に相談したいけど、来校が難しい」という高校生に向けて、メタバース空間で教員や学生、入試事務室スタッフとの双方向での個別相談を行うことができます。 また、メタバースならではの空間活用を考え、普段は見学をすることのできない「学生寮」をメタバース上に再現。自動案内やキャラクターを使ったアバターを配置することで、初めてメタバースを体験する高校生の参加ハードルを下げるように設計しました。時間制約を設けずいつでも入室可能な環境にしたため、気軽に多くの高校生に参加してもらい、満足度も高かったといいます。
IT企業ドワンゴの運営する通信制高校である角川ドワンゴ学園で、これまで6,000名以上の高校生に行われた「VR教育」。VR内で学習できるようにVRヘッドセット「Meta Quest2」を学生に配布し、VRプラットフォーム「バーチャルキャスト」を利用して、VR空間内で授業を受ける仕組みを運用しています。
N/S高等学校のVR教育は、単に映像をバーチャル空間に配信するものではありません。授業で利用するサブテキストや世界地図、グラフなどを出現させることができ、実際に自分の手で触れて能動的に学べる点が大きな特徴です。また、授業のみならず、学内行事にもVRを積極的に活用している点も見逃せません。これまで海外修学旅行や新入生を集めた入学式などをVR空間で実現しており、生徒が自主的に学園イベントなどを運営しています。
東京大学は、中高生や社会人を対象に、メタバースで工学や情報を学べる教育システムとなる「メタバース工学部」を設立しました。メタバース工学部は正式な学部ではなく、工学分野におけるダイバーシティ&インクルージョンを基本コンセプトとする新しい学びの場。年齢、ジェンダー、立場、居住地を問わず、すべての人が工学や情報を学ぶことができます。
中高生向け講義は保護者や教師も参加でき、大学での工学の授業や卒業後のキャリアなども学べます。また、社会人向け講義は人工知能(AI)や次世代通信などが学べ、起業家教育なども盛り込んだ本格的な教育プログラムが組まれており、教育科目ごとに修了証が交付されます。
羽衣国際大学は、学生とフィリピン人英語講師との英会話レッスンをメタバースで行いました。学生は、Meta(旧Facebook)社のバーチャル会議アプリ「Horizon Workrooms」とVRヘッドセット「Meta Quest 2」を使って、バーチャル会議室でフィリピンにいる英語講師から英語のスピーキングレッスンやフィリピンの異文化について学びました。
コロナ禍で海外留学や国際交流ができなくなった中でも国際交流を止めたくないという思いでメタバースを活用し、参加した学生からは、「お互いアバターなので対面の英語レッスンやオンライン英会話より緊張感が少ない」「先生もアバターだから親しみやすく話しやすい!」と好評だったようです。
順天堂大学とIBMが共同で取り組む医療サービス「順天堂バーチャルホスピタル」。医療の世界にメタバースを組み込む、この異色ともいえる掛け合わせは、国内でもまだほとんど例がなく各界の注目を集めています。
バーチャルホスピタルでは、順天堂医院の病院内をいつでも訪問することができ、正面玄関から入った後は他の棟やフロア、一部の診察室や処置室への出入りもできるなど、通院前に院内の様子をじっくりと見て回れます。今後は、入院患者が病院の外の仮想空間で家族や友人と交流できる「コミュニティ広場」の構築や、説明が複雑な治療をアバターを通じて疑似体験してもらうことで、治療に対する理解が深まるかといった検証を予定しています。
関西外国語大学の海外協定校であるテネシー大学ノックスビル校(UTK)が主催する、オンライン文化コミュニケーションプログラム「Friends Across the Sea」が開催されました。春休みの期間を利用し、関西外大の学生7名を含む、神戸大学、学習院大学の全21名の日本人学生に加え、テネシー大学の現地学生21名が参加。プログラムを通じて国際交流を深め、語学力やプレゼンテーションなどのスキルを磨きました。
関西外大ではこれまでIEPをはじめ数多くのオンライン国際交流プログラムを実践してきましたが、2Dメタバース「ギャザータウン」を活用したものは今回が初めての試み。参加した学生からは「アバターを自由に移動させられるのが面白く、リアルな教室にいるのと同じような感覚で授業を受けられた」と好評。関西外大ではギャザータウンに独自の空間の作成を検討しているほか、同サービスを活用したイベントも今後手がけていく予定です。
認定NPO法人カタリバは、不登校の子供たちの新たな居場所としてメタバースを活用しています。これまで全国各地の不登校の子供たちとその保護者にとって新しい選択肢のひとつとなれるよう、さまざまな自治体と連携し、取り組みを進めてきました。
臨床心理士や社会福祉士などの専門的な知識を持ったスタッフが、生徒一人一人に合わせた学びを提供しているのが特徴です。さらに、オンライン無料相談窓口やオンライン保護者会など教育以外のサポートも充実しているなど、不登校の子供たちと学校を繋ぐ役割を努めています。メタバースを活用し、自治体を超えて人材や学びの場をシェアすることで、新たな支援スキームを構築しています。
今回は、教育にメタバースを活用するメリットや活用する上での課題とともに、メタバース×学校教育の活用事例をご紹介しました。学校教育における活用事例は着実に増えてきており、今後の可能性を感じられる分野です。メタバースキャンパスが普及すれば、学生たちが国境を越え、大学を行き来しながら学ぶことが当たり前になるかもしれません。
トランスコスモスでは、法人・教育機関向けメタバースについて企画・プラットフォーム選定から運用までを一貫してサポートしています。ぜひお気軽にトランスコスモスにご相談ください。
著者
メタバース情報局編集部
メタバース情報局 by transcosmosはトランスコスモス株式会社が運営する法人向けメタバース情報メディアです。メタバースを活用したビジネスの事例やノウハウ、最新情報、バーチャル体験など、メタバースの魅力をお届けします。ビジネスシーンにおけるメタバースの活用や、導入をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。
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