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コラム

2023/11/03

メタバースが失敗するといわれる理由とは?将来性や今後の展望を解説

メタバースが失敗するといわれる理由とは?将来性や今後の展望を解説

近年、メタバースが注目を集め、多くの企業が取り組みを発表しています。しかしながら、これらの取り組みは一過性のものが多く、事業化の停滞や中止に追い込まれた企業は9割超に達するとの調査もあります。新型コロナ禍で非対面の仮想空間に注目が集まったものの、コロナ禍の収束が見え始めると盛り上がった熱気が後退し始めました。セカンドライフの失敗やMeta社の業績不振などから「オワコン」感が漂っていますが、果たしてメタバースは本当に「オワコン」なのでしょうか?

メタバースを活用したビジネス検討を社内で求められているお客様企業の中には、メタバースに対して懐疑的で、参入には時期尚早と考えている方が多くいらっしゃるのが現状です。今回は、同じようなお悩みを持つ方に向けて、メタバースのビジネス活用の可能性について解説していきます。

メタバースとは何か

調査会社のガートナーは、メタバースを「仮想的に拡張された物理的現実とデジタル化された現実の融合で創り出される集合的な仮想共有空間」と定義しています。簡単に言うと、メタバースはインターネットの次の段階として捉えることができるでしょう。インターネットが個人の掲示板や独立したオンライン上の場所として始まり、これらの場所が仮想共有空間のサイトへと発展したように、メタバースもこのような過程を経て進化していきます。
同社は、メタバースは、デバイスに依存するものでも、単一のベンダーが所有するものでもなく、デジタル通貨とNFT(非代替性トークン)で実現する新たなデジタル・エコノミーになると予想しています。
また、メタバースは組み合わせ型のイノベーションであり、機能させるには複数のテクノロジーやトレンドが必要です。メタバースのテクノロジーやトレンドには、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、ARクラウド、IoT(モノのインターネット)、5G、AI、ARクラウドを用いたSpatial Computing(空間コンピューティング)などが関与します。

メタバースの現在地

メタバースもWeb3もまだまだ黎明期で、この1~2年で収益を得られるものにはならないでしょう。とはいえ、新たな可能性への萌芽がそこかしこに見られるのもまた事実です。その前に、メタバースの現在地を整理しておきましょう。

2-1. Gartnerハイプ・サイクル2023年版でメタバースが「幻滅期」入り

ガートナージャパンは2023年8月、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」を発表しました。生成AIと分散型アイデンティティが「過度な期待」のピーク期とした一方で、22年に「過度な期待」のピーク期に位置していたメタバース、Web3、NFTなどは、23年版では幻滅期に位置付けられました。

出典:Gartner(2023年8月)

ガートナーのハイプ・サイクルとは、実用化の可能性や市場の期待、企業の採用状況などを基に、新しいテクノロジーの評価や普及時期を図示したものです。イノベーションが過度にもてはやされる期間を経て「幻滅期」を迎え、最終的には市場や分野でその重要性や役割が理解され、進化する共通のパターンを描いたものです。ガートナーの唱えるハイプ・サイクルの目的は、新しいテクノロジーが時間の経過とともにどのように進化するかを視覚的に説明することで、特定のビジネス目標に沿って採用判断のために必要な最適な知見を提供するためです。

ハイプ・サイクルの5段階

  1. 黎明期:潜在的技術革新によって幕が開きます。初期の概念実証(POC)にまつわる話やメディア報道によって、大きな注目が集まります。多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。
  2. 「過度な期待」のピーク期:初期の宣伝では、数多くのサクセスストーリーが紹介されますが、失敗を伴うものも少なくありません。成功事例が出ることもありますが、多くは失敗に終わります。
  3. 幻滅期:実験や実装で成果が出ないため関心が薄れます。新テクノロジーの創造者らは再編されるか失敗します。そしてメディアは、その話題や技術を取り上げなくなります。
  4. 啓発期:新しいテクノロジーが企業にどのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まります。第2世代と第3世代の製品がテクノロジー・プロバイダーから登場し、パイロット版に資金提供する企業が増えます
  5. 生産性の安定期:主流採用が始まります。プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義されます。テクノロジーの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。

2-2. メタバースビジネスの事業化に失敗した割合は91.9%

コンサルティングファームの株式会社クニエは、メタバースの事業化検討に関わったことのあるビジネスパーソンを対象に「メタバースビジネスの実態調査」を実施し、2023年5月23日レポートを公開しました。当調査は、メタバースビジネスの取り組み状況の把握と、事業化の成功・失敗要因の抽出を目的としたもので、そのスクリーニング調査の結果として、「事業化の成否が判明した取り組み」のうち91.9%が事業化に失敗しているということが判明しました。

出典:株式会社クニエ

事業化に失敗するメタバースビジネス13の特徴

事業化に失敗するメタバースビジネスの特徴としては、メタバースビジネスを既存ビジネスの延長線上に位置づけてしまい、メタバースに取り組むこと自体が目的化しがちです。しかし、メタバースはあくまで手段であり、手段の目的化を避けるためにも、自社が取り組む意義を考えることが重要となります。また、多くの企業は、「メタバースでどのようなサービスが提供可能か」というユースケース起点で検討を進める傾向があります。しかし、このアプローチでは市場ニーズとのズレが生じ、ユーザーにとって価値のないサービスとなる可能性が高いでしょう。まずは顧客が抱える課題やニーズの理解を深めた後に、メタバースを用いた提供価値を検討する順番で進めることが重要です。

企画内容・ビジネスモデル
01既存ビジネスの延長線上に位置づけてしまう
02“粘着性“のある企画になっていない
03メタバースである合理性が説明できない
04キャッシュポイントが少ないビジネスモデルを設計している
05現実離れしたコスト見積りで検討を進めてしまう

失敗層は、メタバースビジネスを既存ビジネスの延長線上に位置づけてしまい、メタバースビジネスに取り組む“意義“が薄い可能性があります。そのため、メタバースビジネスを“事業”として捉える視点が希薄であり、「キャッシュポイント」や「コスト」などの検討が軽視されています。

検討プロセス
06ターゲットや課題・ニーズの明確化が不十分
07業務プロセスが可視化できていない
08事業リスクの分析と撤退条件の設定が曖昧
09社内事例やユーザーへの調査を実施していない

失敗層は、ユーザー調査を実施しておらず、「ターゲットや課題・ニーズ」が明確になっていないため、エンドユーザーへの提供価値が小さい企画となっている可能性が高いでしょう。また、事業計画を策定する上で重要な要素である「業務プロセスの可視化」や「事業リスクの分析」、「撤退条件の設定」も十分に検討できていません。

組織・体制
10「新規事業開発」「技術領域」「デジタル領域」の専門性を持つ人材の不足
11企画検討に必要なノウハウがなく、初期段階から検討が詰まってしまう
12社内外の支援が得られず、孤軍奮闘を余儀なくされる
13上層部や既存事業からの要望に振り回され、意思決定も遅い

失敗層は、検討チーム内に「新規事業開発」「技術領域」「デジタル領域」の専門性を持つ人材や、企画検討のノウハウが不足しています。さらに、社内外からの支援も得られておらず、企画検討に必要な体制が整っていないことが挙げられます。

2021年にMetaやMicrosoftなど巨大テック企業によるメタバースへの大型投資が発表されて以降、国内でも多くの企業がメタバースに参入し、仮想空間上でセミナーやイベント開催、バーチャル店舗の出店など多くの取り組みが発表されています。しかしながら、これらは宣伝効果を狙ったものや、ナレッジ、データ収集目的の実験的な取り組みが大半で、現時点で事業化まで辿り着いた企業はあまり多くありません。一方で、自社の事業環境を鑑み、メタバースビジネスの実現を模索している企業も一定数存在しており、メタバースそのものは今後一旦「幻滅期」を迎えながらも、メタバースビジネスを展開する企業は緩やかに増加していくものと考えられています。

課題解決はテクノロジーの進化

メタバースのビジネス活用における課題は、2点あると考えられます。それは、「ユーザーを集められていないこと」「マネタイズができていないこと」です。ビジネスを継続するためには、仮想空間に常に人が集まっていることが求められますが、現状では実現していません。また、展開する商品やサービスについても現実世界の延長上のものにすぎず、ユーザーに代金を支払っていただくような価値をメタバース上で提供できていないのが現状です。では、前述の課題を今後どのように解消していけるのでしょうか。

3-1. メタバースのバリューチェーン

まず、メタバースがどのような構成要素で成り立っているのかを把握する必要があります。ここでは、米Beamable社のCEOである Jon Radoff氏の説明を取り上げます。同氏は、2021年4月に「メタバースバリューチェーン」と題して、メタバースに求める体験や経済圏、それを可能にする技術や環境などの構成要素を7つのレイヤーに分類しています。

出典:米Beamable社 Jon Radoff氏 「The Metaverse Value-Chain」
1Experience
(体験)
ゲーム、ソーシャル、eスポーツ、シアター、買い物など、
メタバースを体験できる環境やサービス
2Discovery
(発見)
ユーザーに体験を通じて新しい発見をもたらすこと。
仮想空間内で表現される広告やOOHなども含まれる
3Creator Economy
(クリエイター経済圏)
メタバース上で各プレイヤーが生み出す経済的価値
4Spatial Computing
(空間コンピューティング)
3Dエンジン、VR/AR/XRなど、空間を作るための仕組み、
エンジンなど
5Decentralize
(非中央集権)
エッジコンピューティング、AI、マイクロサービス、
ブロックチェーンなど、エコシステムの多くを分散環境に
構築・移行し稼働
6Human Interface
(デバイス)
スマホ、VRヘッドセット、高度なスマートグラスなど、
メタバースに参加するデバイス
7Infrastructure
(インフラ、通信)
5G、6G、半導体、クラウドコンピューティング、
通信ネットワークなど

この7つのレイヤーの内、事業会社が取り組む要素は、主に「1.Experience(体験)」、「2.Discovery(発見)」、「3.Creator Economy(クリエイター経済圏)」になります。 一方、前述のビジネス課題の解決には、これらを下支えするテクノロジー関連レイヤー、すなわち、「4.Spatial Computing(空間創造)」、「5.Decentralize(非中央集権)」、「6.Human Interface(デバイス)」、「7.Infrastructure(インフラ、通信)」の進化がカギを握っているため、これらの動向に注目しておくべきでしょう。

3-2. メタバースのビジネス活用が進まない背景

「ユーザーを集められていない」原因の一つに、デバイスが挙げられます。メタバースならではの体験にはVRデバイスの没入感が必要ですが、現在のVRデバイスはコストが高く、サイズや重量の問題があります。また、没入感のある体験をするには、スマホのスペックが不足しています。ユーザーにVRデバイスを普及させるには、低価格化、小型化、軽量化が必要です。
しかし、昨今のデバイス技術の進歩は目覚ましいものがあり、この問題は次第に解消されつつあります。同時に、VRデバイスはマスト条件ではありません。専用デバイスがなくてもスマホやタブレットからメタバースに気軽にアクセス可能です。
一方、「マネタイズができていない」という問題の一因は、コンテンツです。いざメタバース空間に入ったとしても、長く過ごしたい、また行きたいと思わせる魅力的なコンテンツがなければ、集客はもちろん定着は難しいでしょう。現時点では、メタバース上でのセミナーや音楽ライブなどのイベント、バーチャル店舗の出店など、多くの取り組みが行われていますが、これらは注目度の高いメタバースを利用したスポット的なプロモーションや、ナレッジ、データ収集を目的とした実験的な活動である場合がほとんどです。メタバースならではの体験やコンテンツを提供することで、集客・定着させる必要があります
また、たとえ集客が定着したとしても、メタバース空間上でマネタイズできる仕組みがないと、ビジネスとしては成立しません。先述の通り、現時点ではイベント的な使われ方が多いですが、メタバース上での販売や広告、サブスク、マッチング等のビジネスモデルを確立させ、マネタイズ化する必要があります
最後は、ガイドライン・標準化です。確立されたメタバースは、現時点では存在しません。各社のメタバースプラットフォームが乱立し、デバイスも独自仕様のものが混在している状況です。将来的には、メタバースに関する法令やガイドラインが整備され、合わせて標準化が進み、サービス間の相互運用が確立されることで、自身のアバターが複数のメタバース空間を行き来するユーザー体験が可能となり、メタバースが広く普及していくことが見込まれます。

2026年までに25%は1日1時間以上をメタバースで過ごすと予測

ガートナーは2022年2月に、メタバースに関する展望を発表しました。それによると、2026年までに人々の25%は、仕事や授業、ショッピング、他者との関わり、エンターテインメントなどのために、1日1時間以上をメタバースで過ごすようになると予測しています。
アナリストでバイスプレジデントのMarty Resnick氏は、展望について「既にベンダーは、ユーザーがデジタル化された世界で生活するための空間やサービスを構築し始めている。仮想授業への出席やデジタル空間での土地の購入、仮想住宅の建築といった活動は、現在別々の環境で行われている。だが将来的には、単一の環境、すなわちメタバースで行われるようになるだろう」と述べています。さらに、「企業は、デジタルビジネスからメタバースビジネスに移行することで、自社のビジネスモデルを前例のないやり方で拡大・強化できるようになる。2026年までに世界の組織の30%が、メタバースに対応した製品やサービスを持つようになるだろう」と述べています。

まとめ

今回は、メタバースのビジネス活用の可能性について解説しました。

メタバースバリューチェーンの7つのレイヤーは、多くのプレイヤーにより日々アップデートされています。これらの技術が進化することで、近い将来、普及の準備が整うでしょう。その際、どのようなプラットフォームを選定し、どのようにデバイスを活用し、魅力的なコンテンツを提供できるかは、自社の企画力にかかっています。最新技術を注視しながら、適切なタイミングで参入することで、メタバースの課題を乗り越え、ビジネスを軌道に乗せることができるでしょう。

トランスコスモスでは、自社でもメタバース「サービス体験ルーム」を実践しつつ、メタバース活用において、Web型メタバース提供をはじめ、各種メタバースソリューションの活用を企画・コンサルティングからプラットフォーム選定開発、集客、コミュニケーション支援、データ利活用までをワンストップで提供します。メタバースのビジネス活用などでお困りの際は、ぜひご相談ください。

  • 著者

    メタバース情報局編集部

    メタバース情報局 by transcosmosはトランスコスモス株式会社が運営する法人向けメタバース情報メディアです。メタバースを活用したビジネスの事例やノウハウ、最新情報、バーチャル体験など、メタバースの魅力をお届けします。ビジネスシーンにおけるメタバースの活用や、導入をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。

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