2023/03/30
ゲームの世界ではよく聞かれていた「メタバース」ですが、最近はビジネスシーンでも耳にすることが増えてきました。
総務省が発表した「令和4年 情報通信白書」では、世界のメタバース市場規模は2030年には78兆8,705億円に達すると予測されており、5GやVRの技術の進展も相まって、メタバースは今後も成長が見込まれています。事実、さまざまな企業が新たなビジネスチャンスを求め、メタバースへの参入を発表しています。
しかし、メタバースという言葉はよく聞くものの、「実際にどういうものなのかよくわからない」「活用するメリットがよくわからない」という人もまだ多いのではないでしょうか。
そこで今回は、メタバースとはどういったもので、なぜ注目されているのか、企業が活用することでどのようなメリットがあるのかなどを解説します。
メタバースは超越を意味する「Meta(メタ)」と、宇宙や世界を表す「Universe(ユニバース)」を組み合わせた造語です。1992年に発表されたニール・スティーヴンスンの小説「スノウ・クラッシュ」に、バーチャルワールドとして「メタバース」という名称が出てきたことが由来とされています。
メタバースは、インターネット上に構築される仮想空間であり、ユーザーは分身である「アバター」を介してその世界に入ります。
現在、メタバースはインターネット上に構築された仮想空間を指していますが、今のところ明確な定義はありません。さまざまなメタバースが存在しており、サービスによって多種多様な体験が可能です。
「メタバースはインターネット上に構築された仮想空間」と紹介しましたが、仮想空間はこれまでにもゲームなどで存在していました。では、従来の仮想空間とメタバースの何が違うのかといえば、「1人で楽しむか」「他者がいることが前提か」という点が挙げられるでしょう。
従来の仮想空間は現実と完全に分断された空間であり、それを個人で体験することがポイントとなっています。他者とのかかわりは考慮されず、それによってユーザーに新しい体験を提供します。メタバースの場合はインターネット上でアバターを介し、個人的な体験だけでなく他者と社会的な交流を楽しむことがポイントになっています。
また、「Play to Earn(稼ぐために遊ぶ)」の概念の有無も大きな違いです。従来の仮想空間は現実とは切り離されており、あくまで画面上で完結するものでした。それに対しメタバースは、お金や土地などが現実と同じように取引されており、メタバース上で稼いだお金を現実で利用することも可能。仮想空間と現実の差が曖昧であるところも、これまでの仮想空間にないメタバースの特徴です。
メタバースと混同されるものとして、VR(Virtual Reality)が挙げられることがあります。VRは専用ゴーグルを付けて仮想世界に没入するもので、そのため「ゴーグルがないとメタバースを利用できない」と思われることもあるようです。
ただし、VRは、仮想空間をより現実に感じられるようにする技術やデバイスであり、それに対してメタバースは空間そのものを指しています。VRはメタバースに臨場感をもたらしますが、なければメタバースが利用できないというわけではないのです。
同様に、「メタバース=3D」と考えられることもありますが、メタバースには2Dも存在しており、必ずしも3Dとは限りません。
メタバースは新しい概念のようにいわれることがありますが、構想が誕生したのは1980~1990年代でした。名称は前述のように1992年の小説が由来となっていますし、2003年には世界初のメタバース空間である「Second Life」がリリースされています。
ではなぜ、最近になってメタバースはビジネスシーンで注目されるようになったのでしょうか。
VR技術は急速に発展し、高精細映像や音響技術でより現実に近い仮想空間を作り出せるようになりました。さらに、VRと関連した技術の開発も進み、VRゴーグルやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)なども安価になり、一般層にも普及しつつあります。
こういった技術の進展により、一部にしか知られていなかったメタバースは身近なものとなりました。従来のオンラインとは違った新しい体験が可能になり、新たなビジネスチャンスが広がっています。
前述したように、世界のメタバース市場規模は、2030年に78兆8,705億円に達すると予測されています。Facebookは「Meta」と社名を変更し、毎年100億ドルもの巨額投資を行っています。ソニーも「今後の成長領域」としてメタバースを挙げ、PlayStation 5向けの次世代VRシステム「PlayStation VR2」をリリースしました。
ほかにも、アメリカIT大手各社がメタバースへの事業投資を続々と開始しており、各プラットフォーマーも積極的参入を表明したことで、ビジネス分野でもメタバースに注目が集まっています。
NFTとは、ブロックチェーンの仕組みを使って、デジタルデータの保有者情報を管理する技術です。「Non-Fungible Token」の略語で、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれます。NFTの登場によって、デジタルデータの保有者情報の証明が可能となり、偽造やコピーを防止できるようになりました。つまり、デジタルデータにも資産価値を与えられるようになったのです。このNFTと仮想通貨を組み合わせることで、メタバース内で世界中の人々と経済活動を行えるようになることから、市場が盛り上がりを見せています。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、リアルイベントは軒並み中止や延期となり、ビジネスはかなり制限を受けました。そういった中で利用されたのが、人との接触を避け、バーチャルの空間でコミュニケーションができるメタバースです。
バーチャルイベントやバーチャルオフィス、仮想商談など、さまざまなビジネス活動がメタバースを利用して行われました。結果として、メタバースで多くのことが代替可能であることがわかり、さらにメタバースを利用したビジネスに多くの可能性があることが注目されるようになったのです。
メタバースが進展していること、注目されていることはわかりましたが、企業がメタバースを利用することや参入することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。企業がメタバースを活用するメリットを、いくつかご紹介します。
メタバースのメリットとして、距離や空間の制約がないことが挙げられます。これによって、遠方に住んでいる、介護や育児などの理由で時間がない、障がいなどで外出が難しいなどといった顧客も、メタバース上でなら接点を持てるでしょう。
これまでEC化が難しいとされていた自動車や不動産などの業界も、仮想世界に現実と同じ物を構築する「デジタルツイン」技術などを利用して現実と同様に商品を体験してもらうことが可能となりました。翻訳機能を利用すれば、海外の顧客の呼び込みも可能です。
メタバースの利用によって、新たなマーケティングの可能性が広がりました。先に挙げたようなイベントの開催や出展はもちろん、バーチャルショップの出店やメタバース内での広告出稿なども考えられます。
デジタルツインを利用してユーザーにプロトタイプの商品を体験してもらい、反応を見て商品開発や改修に活かすことも可能です。イベントなどで接触した見込客に対し、商品やサービスをVRで体験してもらい、興味や関心、理解の引き上げなどを行うこともできるでしょう。
品質やスキルの向上にもメタバースは利用できます。メタバース上でシミュレーションを行えば、プロトタイプの作成や試運転などのコストや時間を掛けずにオペレーションの最適化が可能です。
メタバース上に空間を再現することで、物理的に離れた現場の問題に取り組むことも可能になります。危険を伴う作業の研修なども、メタバース上でなら安全に何度も行うことができる点もメリットでしょう。
テレワークが普及したことで課題に上がったのが、社員同士のコミュニケーションが希薄になったことと、業務状況の見えなさです。そこで、メタバース上のバーチャルオフィスが注目されました。
アバターの状態を見ることで状況が確認できますし、対面のコミュニケーションが苦手な人も、アバターを介してならスムーズな会話ができる場合があります。オフィスをメタバース上に設置することで、居住地を問わずに採用ができるといったメリットもあるでしょう。
ビジネスシーンでも注目を集めるメタバースですが、利用するには注意点もあります。メタバースをビジネス利用する際に、注意しておきたいことは下記の3点です。
メタバースを利用する場合、いずれかのプラットフォーマーが提供するサービスを利用する方法と、オリジナルのバーチャルな空間やシステムを構築する方法があります。サービスを利用する場合はそこまで多額の初期費用は必要ありませんが、カスタマイズ性などが低い可能性があり、自社の希望を反映しきれないかもしれません。
メタバースの環境を構築する場合は、自社に合ったオリジナルの空間やシステムを作ることができますが、外部に委託すれば数百万~1,000万円以上かかるとされています。運営していく上で、サーバ費用のほか、アップデート、改修などの費用なども考えておかなければなりません。
内閣府がメタバースの法的課題について協議を行っていますが、メタバースに関しての法律は、未整備といわざるをえません。これから法整備は進むとはいえ、メタバース上での財産をどのように保障するか、なりすましや乗っ取りなどの不正行為があった場合にどのように対処するかは、プラットフォーマーや利用者に委ねられている部分が多いです。
メタバース空間内での不正行為を取り締まるために、利用規約を整備しておくことが重要といえるでしょう。
通常のオンライン環境のセキュリティ対策に加えて、メタバースならではのセキュリティ対策が必要です。課金対象のデータが改ざんされたり無断で複製されたりすれば、本来得られるはずの収入が失われますし、迷惑行為や犯罪行為が行われれば、プラットフォームへの不信感からユーザー離れが起きるかもしれません。
前述のように、メタバース関連の法律は未整備ですから、まずはさまざまな被害につながるなりすましを防ぐため、ログイン認証も必要になるでしょう。
メタバースはさまざまなビジネスで利用されています。その代表例をいくつかご紹介しましょう。
「V-air」は株式会社Urthが提供しているプラットフォームで、法人向けに特化したメタバース空間を提供しています。トランスコスモスが公開している「メタバースサービス体験ルーム」もV-airで制作されています。スマートフォンやPCブラウザからログインでき、アプリのインストールが不要なメタバースです。企業は自社のニーズに合わせてカスタマイズされたバーチャル空間を建築士とともに構築することができ、オフィス活用や展示会・イベントなどの実施が可能になります。
フォートナイトは、総プレイヤー数5億人以上、月間アクティブユーザー数7,000万人以上(2023年3月23日現在)のオンラインゲームです。他のユーザーと協力する「世界を救え」、オンラインで対戦する「バトルロイヤル」のほか、フォートナイトをプラットフォームとして、メタバース空間やオリジナルゲームを制作できる「クリエイティブ」など、さまざまなモードで遊ぶことができます。
過去にはフォートナイト上でさまざまなアーティストがライブを行い、日本でも米津玄師さんや星野源さんが実施したことで大きな話題となりました。
α(アルファ)Uは、2023年にKDDIが始動させたメタバース・Web3サービスです。現実空間と仮想空間の垣根を取り払って、「すでにひとつの世界である」という意味を込めて「現実世界と、仮想世界の線引きのないひとつの世界」をコンセプトに設定しました。
仮想現実とブロックチェーン技術を組み合わせて、没入感のある仮想空間を提供しており、メタバース、ライブ配信、バーチャルショッピングなど複数のサービスで構成されています。クリエイターコミュニティを支援することで、新しいデジタルコンテンツの創造を促進している点も特徴でしょう。
Horizon Workroomsは、Metaが提供するミーティングサービスで、ユーザーは一体型VRヘッドセットを利用してメタバース上の会議室にアバターとしてログインします。話しているアバターの方向や距離によって聞こえ方が異なる空間オーディオ技術を採用しているほか、ハンドトラッキング技術によって身振り手振りや口の動きなども再現され、よりリアルに話者の存在が感じられるでしょう。
ホワイトボード機能やブレインストーミング機能、ドキュメント作成機能など、ビジネス向けの機能も充実しています。
期待が先行するメタバースとWeb3。大きな可能性を秘めていますが、メタバースもWeb3もまだまだ黎明期で、この1~2年で収益を得られるものにはならないでしょう。とはいえ、新たな可能性への萌芽がそこかしこに見られるのもまた事実です。その前に、メタバースの現在地を整理しておきます。
ガートナージャパンは2023年8月、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」を発表しました。生成AIと分散型アイデンティティが「過度な期待」のピーク期とした一方で、22年に「過度な期待」のピーク期に位置していたメタバース、Web3、NFTなどは、23年版では幻滅期に位置付けられました。
コンサルティングファームの株式会社クニエは、メタバースの事業化検討に関わったことのあるビジネスパーソンを対象にメタバースビジネスの実態調査を実施し、2023年5月23日レポートを公開しました。当調査は、メタバースビジネスの取り組み状況の把握と、事業化の成功・失敗要因の抽出を目的としたもので、そのスクリーニング調査の結果として、「事業化の成否が判明した取り組み」のうち91.9%が事業化に失敗しているということが判明しました。
事業化に失敗するメタバースビジネスの特徴としては、メタバースビジネスを既存ビジネスの延長線上に位置づけてしまい、メタバースに取り組むこと自体が目的化しがちです。しかし、メタバースはあくまで手段であり、手段の目的化を避けるためにも、自社が取り組む意義を考えることが重要となります。
また、多くの企業は、「メタバースでどのようなサービスが提供可能か」というユースケース起点で検討を進める傾向があります。しかし、このアプローチでは市場ニーズとのズレが生じ、ユーザーにとって価値のないサービスとなる可能性が高いでしょう。まずは顧客が抱える課題やニーズの理解を深めた後に、メタバースを用いた提供価値を検討する順番で進めることが重要です。
Meta社やMicrosoft社など世界的大手企業によるメタバースへの大型投資が発表されて以降、メタバースに取り組む日本企業が多く見られました。しかしながら、現時点で事業化まで辿り着いた企業は数少なく、多くの企業が事業化に失敗しています。一方で、自社の事業環境を鑑み、メタバースビジネスの実現を模索している企業も一定数存在しており、メタバースそのものは今後一旦幻滅期を迎えながらも、メタバースビジネスを展開する企業は緩やかに増加していくものと考えられています。
メタバースは、ゲームやバーチャルライブなどのエンタメを筆頭に、ビジネス活用はまだ始まったばかりです。メタバース市場は今後大きな成長が予想されているものの、現在地では幻滅期にあり、あらゆる業界の企業が中長期的な収益最大化に向け、活用法を模索している段階にあります。
そのため、計画と実行のプロセスをアジャイルに回し、仮説立案・実行・検証・施策立案のサイクルを繰り返すことが重要なポイントです。トランスコスモスでは、自社の事業がメタバースにフィットするかを事前に見極めたいというお客様企業に対し、メタバースビジネスへの参入判断や、事業検討の具体化を支援する「メタバースワークショッププログラム」を提供しています。ぜひトランスコスモスにご相談ください。
著者
メタバース情報局編集部
メタバース情報局 by transcosmosはトランスコスモス株式会社が運営する法人向けメタバース情報メディアです。メタバースを活用したビジネスの事例やノウハウ、最新情報、バーチャル体験など、メタバースの魅力をお届けします。ビジネスシーンにおけるメタバースの活用や、導入をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。
関連タグ
この記事をシェアする
関連記事