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コラム

2023/11/09

メタバースの法的課題とビジネスを行う際のリスクとは?

メタバースの法的課題とビジネスを行う際のリスクとは?

近年、ITビジネスのフロンティアとして注目されている「メタバース」。総務省の「令和4年版 情報通信白書」によると、世界のメタバースの市場規模は、2021年時点で4兆2,640億円だそうです。今後も進展を続けるとされ、2030年には78兆8,705億円になると予測されています。
ただし、メタバースは大きな可能性を秘める一方、ビジネス活用にはさまざまなリスクが存在することを把握しておかなければなりません。

本連載は、シリーズ「メタバースと法の交差点」として、内閣府知的財産戦略推進事務局のメタバース官民連携会議有識者メンバーでもあるSAKURA法律事務所の道下剣志郎弁護士に監修いただき、メタバースに関する法的な問題や課題について解説していきます。
第1回目となる今回は道下弁護士にお話を伺い、現在のメタバース空間における法的な問題の概要のほか、企業がメタバースでビジネス活動を行う際のリスクと、その対応についてご紹介します。

メタバースと法の交差点 Vol.1

企業がメタバースを当たり前に活用する時代は、もう始まっている

メタバース空間自体は、2003年にリリースされた「Second Life」のように何年も前から存在しており、一定の企業には活用されていました。ただ当時は、インターネット接続の速さやPCのスペックといった技術的な問題があり、多くの企業が参入するには至りませんでした。
今、技術の進歩が追い付いてきたことで、メタバースはこれからどんどん活用されていくと思います。すでにメタバース空間を開放している会社、コンテンツを提供している会社もたくさんありますし、メタバース内での経済活動も盛んになっています。「企業がメタバースを当たり前に活用する時代は、もう始まっている」というのが、今の実感です。
私は、メタバースは間違いなく次のトレンドになるとの思いから、2010年代の後半頃からこの領域に注目してきました。KDDIさんと一緒に「バーチャル渋谷」およびメタバースの運用・利用指針を整備したガイドライン「バーチャルシティガイドライン」を作らせていただいたり、内閣府知的財産戦略推進事務局「メタバース官民連携会議」に有識者として参加したりと、メタバース上のコンテンツなどを巡るルール整備にも関わっています。

メタバースの拡大に伴い生じた法的課題

当然ですが、メタバースの中にも法令は適用されます。意匠権、商標権、著作権、知的財産権といった権利が保護される、人の物を盗めば窃盗罪にあたるといったことは、現実空間でもメタバース空間でも同じです。
ただし、既存の法令の多くはメタバースを想定していないため、メタバースでの行為にどの法律が適用されるのかが不明瞭で、まだ十分な法整備がされていません。
法律は、前提となる社会的な「立法事実」があって初めて作られるものです。例えば、表現は悪いですが「物を盗む」人がいるから、「物を盗んだものは罰する」という法律ができるわけです。
メタバースに関しては、メタバースでのビジネスや一般の方の活動が広がってきたことで、この立法事実ができ始めた段階です。だからこそ、ルールメイキングが必要になってきました。
メタバースの法的課題とされ、ルールづくりが進められている項目には、下記のようなものがあります。メタバースに参入する企業は、このような法的課題への対応が必要になるわけです。

<メタバースの法的課題>

◯現実空間と仮想空間を耕作する知的財産利用、仮装オブジェクトのデザイン等について
・仮想空間における知財利用と権利者の権利保護
・メタバース上の著作物利用等に関わる権利処理

◯アバターの肖像権に関する取り扱い
・メタバース外の人物の肖像の無断使用への対応
・他者のアバターの肖像等の無断使用その他の権利侵害への対応
・アバターの実演に関する取り扱い

◯仮装オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等
・わいせつ表現、誹謗中傷、ヘイトスピーチ、脅迫、騒音等への対応
・他者のアバターに対する痴漢やつきまとい、覗き、身体的暴力等への対応
・知的財産権の侵害への対応
・なりすましへの対応
・他者のアバターのっとりへの対応

◯国際版管轄、準拠法について

このほか、デジタルコンテンツの所有権の問題もあります。メタバースではすでに1,000万円を超えるようなアイテムも売られていますが、現在、デジタルコンテンツの所有権は民法上認められていません。では、どう対応しているかというと、今のところは、ブロックチェーン技術により取引履歴を明確化するといった方法で技術的な担保がなされることで、取引の信頼性が支えられています。
この点については、何千万、何百万というものがメタバースで取引されている以上、財産上の価値があるのは疑いようもない事実です。個人としては、それを担保するルールづくりができればいいと思っているところです。

企業がメタバースでビジネス活動を行うリスク

法令は、対処法を示すと同時に、「こういう事態が起こりうる」と示すものでもあります。例えば、「殺人を犯した者は罰する」「放火を犯したものは罰する」という法律があれば、殺人や放火のリスクが存在しているとわかりますよね。
しかし、メタバースでは、先にお話ししたように、まだ具体的な法整備ができていません。そのため、「メタバースでどのような問題が起こりうるのかリスクが把握できない」「把握できたとしても、どう対処すべきかわからない」ということが、今メタバースに参入する企業にとってのリスクといえるでしょう。

法的課題への対応の基本は、利用規約の策定

メタバースでビジネス活動を行うリスクは、法律や条約ができれば解決しますが、一朝一夕にできるものではありません。ルールがない中で法的課題に対応するには、私は、メタバースのプラットフォーマーが必要事項を利用規約に定めることだと考えています。
メタバース空間は、将来的には相互に接続し、インターネットのように世界中がつながっていくものです。現段階ではまだそこまで達しておらず、各プラットフォーマーが提供するメタバースが点在しており、プラットフォーマーに権限が集中するWeb2.0時代の中央集権型から逃れられていないように思います。そういった状況では、ユーザーの権利は、まずはプラットフォームの利用規約で守られるべきでしょう。
企業がメタバース上でビジネスを展開するには、「プラットフォーマーとしてメタバース空間を構築・運営する」「プレーヤーとしてメタバースというプラットフォーム上でビジネスを行う」の2つの方法がありますが、どちらにとっても、まず利用規約が重要である点は変わりません。
プラットフォーマーが利用規約をしっかり定めないのは、「うちは無法地帯だけど利用して」と言っているようなもの。誰が何をするかわからない、どういった危険があるかわからないというものを利用したいユーザーはいませんよね。ユーザーが作成したコンテンツの知的財産権はどのように保護されるのか、アバターを介した迷惑行為にはどう対処するかなどが、しっかり利用規約として定められているプラットフォームでなければ、ユーザーは安心して利用できません。
既存のプラットフォームを利用してサービスを提供する場合も同じです。そこでビジネスを展開していくのなら、ユーザーの権利や禁止事項、規約違反があった場合の対処法がしっかり定められたプラットフォームを選ぶべきだと思います。

利用規約を作る際に注意すべきこと

利用規約を作る上で重要なのは、メタバースの中で起きうる特有の問題点を捉えた上で、ユーザーの権利や禁止行為、犯罪行為・迷惑行為への対応等を定めることです。
基本的な構造は、これまでにあったECサイトなどの利用規約を踏襲する部分が多いですが、その内容はメタバースに合わせたものにする必要があります。例えば、ECサイトの利用規約には、「偽物を出品することの禁止」は必要ですが、「つきまといの禁止」は的外れでしょう。しかし、メタバースの利用規約に「つきまといの禁止」はまったく的外れではなく、むしろ必要です。
また、利用者にとって不利益になる利用規約は法律上無効になる可能性が高いので、その点も注意する必要があります。そこを見極めつつ、自社に有利なギリギリのラインを狙うことが、ビジネスモデルとして重要です。
メタバース内の経済活動は、すでに日本だけでも年間数百億円規模 に上ります。しっかりした利用規約を作っていないと、プラットフォーム内で問題が起こったとき、プラットフォーマーが損害の責任を負うこともあるでしょう。そのリスクを負ってサービスを提供できるかといえば、無理ですよね。
利用規約でユーザーの権利や禁止行為、犯罪行為・迷惑行為への対応等を定め、企業が責任を負う範囲を明確にしておかないと、ビジネスのリスクを適切に把握できません。そういった状態でのビジネスは危険すぎるので、利用規約は本当にしっかり作っておくべきです。

メタバースに精通した専門家に相談する重要性

利用規約を作ることは、メタバースでどのような問題が起こりうるのかに精通した専門家でないと難しいでしょう。メタバースでどのような事業を行うのかによっても、利用規約に盛り込むべき要素は変わりますから、初めて参入するという事業者ほど、メタバースに詳しい弁護士などの専門家に相談していただきたいです。
思い描くビジネスをメタバースで展開するにはどのような方法があるのか、そこにはどういったリスクがあり、どう対応すべきなのかについて、アドバイスを受けてください。
プラットフォームを利用してサービスを展開する場合も、プラットフォームの安全性を見極めるには、やはり専門家に相談することをおすすめします。個人で利用する分には問題なくても、安全にビジネスが行えるかは別の検討が必要です。
実際に、メタバースの専門家を入れずに作った不十分な利用規約で問題が発生し、何とかならないかと、SAKURA法律事務所に相談に来られるケースはたくさんあります。日本では、コンサルティングサービスはコストと考え、目に見えないものにお金をかけようとしない文化が強いですが、欧米では投資だと捉えられています。
利用規約の穴は、それだけでビジネスがダメになる可能性があるものですから、「利用規約を作る際は、専門家を起用しよう」は、声を大にして言いたいところです。

リスクを適切に把握した上で、バランス感覚を持ってメタバース利用を進めてほしい

私は、トランスコスモスとアドバイザリー契約を結んでおり、メタバース空間内で起こるリスクを皆様にお伝えしたり、どのような利用規約がメタバースに適切なのかといったことを一緒に議論したり、メタバースに関する法的論点を啓蒙するといったことをしています。
メタバースについては、まだ法制度が十分に整備されていないので、確かにさまざまなリスクがあります。だからこそ、「この範囲で活動すれば問題は起こりにくい」ということを専門家の立場から示し、メタバースでのビジネスを後押しするのが、私たちの仕事であると考えています。
企業の皆様は、メタバースを怖がらずにぜひ使ってみてください。新しい領域ではあるので、そのリスクを十分に把握した上で、バランス感覚を持って利用を進めることが大切です。
この連載では、そのために役立つ記事を掲載していきますので、お付き合いいただけたらと思います。

  • 監修者

    道下 剣志郎

    SAKURA法律事務所 代表弁護士

    一橋大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金融商品取引法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間訴訟、危機管理、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応など、幅広い案件を取り扱う。また、メタバース、NFT、WEB3、DAOなど、最先端法務分野に関して、国内でも先駆けて多数の案件を取り扱う。メディア出演や年間多数の講演を行うなど幅広い活動をしている。

    所属等

    第一東京弁護士会 / バーチャルシティコンソーシアム / 一般社団法人Metaverse Japanアドバイザー / 内閣府知的財産戦略推進事務局メタバース官民連携会議 有識者

    トランスコスモスのメタバース SAKURA法律事務所

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